シニア世代を思いっきり楽しむ|60代からの暮らし・趣味・ペット・自然と生きるブログ

📝 花を見つけるのは彼が先、川で濡れるのは僕たちが先|山仲間との愉快な思い出

若いころ、私は山歩きが大好きでした。

10代の後半から20代にかけて、気の合う仲間たちと、いろいろな山を歩いていました。

山の魅力は、頂上から眺める景色や、澄んだ空気だけではありません。

一緒に歩く仲間との何気ない会話や、思いがけない出来事も、山歩きの楽しさでした。

今でも思い出すと、つい笑ってしまう出来事がいくつもあります。

その中でも、とりわけ印象に残っているのが、目の見えない山仲間との思い出です。

特別な存在ではなく、普通の山仲間

当時、私には6人ほどで山を歩く仲間がいました。

それとは別にも山仲間がいて、その中に目の見えない男性が一人いました。

彼とは、一般的な登山コースから上級者向けのコースまで、いろいろな山を一緒に歩きました。

私たちは、彼と山に登ることに特別な感情はなく、ただ、山が好きで、一緒に歩く仲間です。

もちろん、危険な場所では、お互いの安全を確かめながら進みました。

足場の悪いところでは、自分たちの安全も確保したうえで、彼の足を持って安全な足場へ誘導することもありました。

でも、それは私たちにとって、山を一緒に歩くための自然な行動でした。

「目が見えてるから怖いんだよ」

上級者向けのコースには、足元を見ると思わず身がすくむような場所もありました。

そんなとき、私たちが、「ここ、めっちゃ怖いよ!」と言うと、彼はよくこんなことを言いました。

「目が見えてるから怖いんだよ。俺は見えないから怖くない・・・」、なんとも彼らしい返事でした。

こちらは足元の険しさを見て、ドキドキしているというのに、彼は実にあっさりしたものです。

もちろん、見えないから危険がないわけではありませんし、私たち以上の緊張感もあったと思います。

だからこそ、危険な場所では互いに声を掛け、安全を確認しながら歩いていました。

それでも、彼の一言には、いつも思わず笑ってしまいました。

怖がっている私たちの方が、なんだかおかしくなってしまうのです。

花を見つけるのは、いつも彼が先だった

彼と歩いていて、もう一つ面白かったことがあります。

それは、山道に咲く花のことです。

私たちは目で景色を眺めながら歩いていました。

ところが、彼は花の香りにとても敏感でした。

歩いている途中で突然、「花が咲いている!」と言うのです。

すると、目の見える私たちは大慌て。

「えっ、どこ?」「どこに咲いてる?」と、あたりをキョロキョロ見回します。

彼は香りで花の存在に気づいているのに、私たちは目で探しても、なかなか見つけられない。

そんなことが、しばしばありました。

目が見える私たちより、彼の方が先に花を見つける。

いや、正確には、花の存在を感じ取っていたのでしょう。

同じ山道を歩いていても、感じ取っているものは人それぞれ違うのだと、今になって思います。

でも、当時の私たちは、そんな難しいことを考えていたわけではありません。

「どこだ、どこだ?」と花を探しては、みんなで笑っていたのです。

川を渡ったのはよかったけれど・・・

そして、今でも思い出すと笑ってしまう、忘れられない出来事があります。

あるとき、山歩きの途中で、広い川を渡ることになりました。

川の中には石が点々とあり、それを足場にして向こう岸へ渡ります。

私たちは、彼が川に落ちたり、足を滑らせたりしないように、安定した石を探しました。

そして、安全な足場に彼の杖を誘導します。

彼は杖で位置を確かめ、教えられた足場に確実に足を置いて進んでいきました。

一歩、また一歩。

私たちも足元に気を配りながら、慎重に川を渡りました。

そして、彼は無事に向こう岸へ。

なんと、まったく濡れずに渡り切ったのです。

ところが・・・。

サポートしていた3人は、びしょ濡れになっていました。

彼の足場を探し、安全に渡れるように気を配っているうちに、自分たちの方が濡れてしまったのです。

その様子を彼に説明すると、返ってきた言葉は、

「濡れなくてよかったー!」でした。

その一言に、みんなで大爆笑。

「いやいや、こっちはびしょ濡れなんだけど!」

そんな気持ちもありましたが、彼のあまりにあっけらかんとした返事がおかしくて、笑わずにはいられませんでした。

結局、彼だけが濡れず、ほかの3人がびしょ濡れ。

何とも愉快な川渡りになりました。

新聞に載っていた、あの山仲間

その後、私は30代で大阪へ転勤することになりました。

それまで一緒に山を歩いていた仲間たちとも、年賀状をやり取りするくらいのお付き合いになっていきました。

そんなあるとき、新聞で懐かしい姿を見かけました。

あの山仲間が、目の見えない登山者として紹介されていたのです。

北アルプスでの写真も掲載されていました。

私は思わず、「あれっ、あいつじゃないか!」という気持ちになりました。

昔、一緒に山を歩いていた仲間が、新聞にしれっと登場している。

なんだかおかしくて、懐かしくて。

彼は相変わらず山を歩いているんだな、と感じた出来事でした。

あのころ、私たちはただ山を楽しんでいた

今振り返ってみると、あのころの山歩きには、いろいろな思い出があります。

険しい山道で交わした言葉。

花の香りを誰よりも早く感じ取る仲間。

川を渡り終えて、びしょ濡れの私たちをよそに「濡れなくてよかったー!」と喜ぶ彼。

どれも、今では懐かしい思い出です。

私たちは、彼を助けるために山へ行ったのではありません。

彼も、私たちに助けてもらうために山へ来ていたわけではなかったと思います。

ただ、みんな山が好きだった。

一緒に歩き、危険な場所では助け合い、面白いことがあれば笑う。

それだけの、ごく普通の山仲間でした。

今では、当時の仲間たちと一緒に山を歩く機会はなくなりました。

それでも、あのころの笑い声は、何十年たっても不思議とはっきり思い出せます。

山の景色は、年月とともに少しずつ記憶が薄れていくこともあります。

けれど、仲間と交わした何気ない言葉は、いつまでも心に残っているものです。

花を見つけるのは、いつも彼が先だった。

そして、川で濡れたのは、私たちの方だった。

思い出すたびに、今でも笑ってしまいます。

あのころの山仲間たちは、私にとって、かけがえのない存在だったのだと思います。

そして、そんな思い出を振り返る今日も、ちょっといい日になりそうです。

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